15,小麦粉の調理上の特徴


(15)小麦粉の調理上の特徴

 小麦粉の調理上の特徴は、グルテンの性格によるところが大である。
 いろんな種類の小麦粉菓子についてはその特性をいろいろな形で生かして菓子固有の特徴となしている。

1,パイ生地  パイ生地には折りパイ(フランス菓子風)と練りパイ(アメリカ菓子風)とがある。
 
練りパイ(アメリカ式製法)は、小麦粉、油脂、水分を最初に同時に混ぜ合わせて、折りたたみ、焼き上げる。混ぜ方によって、いくらかのクラスタ(層)ができるが、折りパイのようにきれいなクラスタとはならない。しかし、その特徴は柔らかさと粘りをあわせもつものとなる。
 この特徴を出すために、グルテン量の多い中力粉を主体となし、もろさを防ぐために上質の準強力粉を少量混ぜる。
 この時の注意点としては、強力粉の割合が多いほどグルテンが太く形成されるので、焼き上げが生地より縮小する。この縮小率を抑えるために、生地を練り上げ形成した後は、十分に生地を休ませ、焼成時の縮小率をすこしでも少なくする工夫をことが肝要である。

折りパイ(フランス式製法)は、良質グルテンの準強力粉を用いてその性格である伸展性を利用して薄く延しながら折り込み、そして、強力粉のみならば、口当たりが固いので(パンの様にイーストをもちいて発酵しないので、イーストによる酵素分解がない) これを防ぐために中力粉を2割から9割混ぜ、口当たりが柔らかくなるようにする。
 通常は、5対5の割合で混ぜる。
 強力粉がおおいとグルテンの形成が多く油脂が良く延びたグルテンの間に入って結果、グルテンの薄い層を沢山つくり焼き上げてみると、パイ1層当たりの厚みは0.1から0.2ミリ程度になる。生地の厚みから比すれば約10倍くらいになる。
 薄力粉中力粉が多いとグルテンの形成が少なく油脂が少ないグルテンの間から吹き出してでんぷんと混ざるので薄い層を作ることができない、パイ1層あたりの厚みは中力粉で0.2から0.3ミリ薄力粉で0.4から0.5ミリとなる。生地の厚みから比すると6倍前後である。 

2,ビスケット
 薄力粉、中力粉、強力粉のそれぞれで、小麦粉100,スノーライト(ショートニング)30、砂糖50,玉子12、アルカリイオン水12,180度12分で、焼き上げて観ると、膨潤する度合いは、強力粉、薄力粉、中力粉の割合で大きくなる、このことは、膨化の度合いがグルテンの量に比例しないことがわかる。
 又、歯ごたえは、薄力粉、強力粉、中力粉の順に大きくなる。
   もろさは、噛んでみると、薄力粉、中力粉、強力粉の順である。
 実験の感触からいえば、薄力粉に1割前後量の中力粉をまぜ、総グルテン量で7から9パーセントにしたものが、適度かと思われる。
 なお、このグルテン量で7から9パーセントのぶれは、生地の混捏時の方法および混入油脂量の度合いによる。
  マツノリンP7やマックス1000を用いると砂糖の配合量が50%以下で焼成後に自然に割れるのを防止することができる。

 3,長崎カステラ
 長崎カステラは私ども熊野屋製菓の主生産品である玉子煎餅の原点(カステラ生地を型に入れて焼いたものが玉子煎餅)でもあり、特に研究に余念がないものである。
 基本的には、グルテン量が6パーセントぐらいの中力粉に近い薄力粉が良いとされる。銘柄でいえば、末吉製粉のツル、日清製粉のフラワー、増田製粉の緑傘、が良い。
 試しに、本来の1等薄力粉であるグルテン量4パーセント以下の日清製粉のバイオレット、末吉製粉の特キリン、更にグルテン量の少ない(2パーセント)末吉製粉の天ぷら専用粉B3,やB4や,B6(石臼引き粉)を用いて焼いてみると、釜の中で膨潤は(記した順に)最高であるが、釜出し後のいわゆる釜落ちも又多く、沈みが激しく、釜中での厚みにはるかに及ばなかった。
 タンパク質があまりに少ないと、引っ張りが無いので、良く浮くが、柱となるべきグルテン量がないので、いわゆる腰が無くなり冷めてからの沈みが多く、しっかりしたボデーを形成しない。
 ほどよい小麦粉を入手出来ないときは3%程度の清酒を入れることによってほどよい口ほどけにあるカステラを作ることができる。
 適度の気泡を得ることが出来ない時は、粉1上白1.2、卵黄1卵白2の割合いとなし、卵黄と上白0.3を混ぜ、別に卵白と上白0.9を混ぜこれに先に泡立てておいた卵黄をいれながら粉と砂糖等を混ぜ合わせたものをいれ軽くまぜて仕上げるとよい。→卵の調理の実際を参照のこと

 4シューの皮
 シューの皮は、上記ビスケットと同じで蛋白量が7から9パーセントのものが適していると言われている。
 試みに、シューの皮を強力粉と薄力粉だけで焼き上げてみると、強力粉だけで焼成したものは、皮は薄いものの口触りが固く、底部の穴はきれいに丸くあがる。薄力粉だけで焼き上げてみると、皮は厚いものの口触りがやわらかく、底部の穴は上手く出来ないで内部の空洞にも沢山の層ができ、クリームを入れにくい。
 この双方の結果から、内部の膜が出来ないように、薄力粉に強力粉を混ぜ、グルテン量を調整してやることが大事である。

 5,スポンジケーキ
 ケーキ製造においては卵黄と卵白とを一緒に泡立てる共立て法と、卵黄、卵白を別々に泡立てる別立て法が一般的である。
 このうち、別立て法の方が卵白の泡立ちを最大限に利用できるので、大きな容積のスポンジケーキが必要なときは手間であれるがそのようにするのがよい。
 この場合注意しなければならないのは、砂糖をあまり最初に全部入れてしまうと泡立ちが消えて少なくなるので、はじめは3割ほどの砂糖で泡立ててから残りを入れるようにするとよい。
 又、全卵で行う場合は、冷蔵庫から出してすぐの低温の状態では泡立ちが良くないので、30度くらいまで湯煎等の方法で温度を上げてから用いると良い結果がでる。
 別立て法の方では、卵白は温度による起泡の変化が少ないので、冷蔵庫からだしてすぐに起泡するのがよい、起泡してからの泡の安定性は低温のほうが良いので好都合である。温度は15度から16度くらいが良好な結果がでる。
 泡立ての時間はミキサーによって違うが基本的には永い方がよい、しかし、これも行き過ぎればダウンする。